目次
リテールメディアとは
小売(リテール)企業が持つ、自社のECサイト店舗やアプリなどのデジタル媒体を広告枠として活用し、メーカーやブランドがそこに広告を出す仕組みのことです。例えば、大手オンラインショッピングサイトやスーパーマーケットのアプリに、特定のメーカーの商品広告が表示されるような形です。
従来の広告とは異なり、リテールメディアでは実際に商品を購入する場所に広告が表示されるため、購買意欲が高い消費者に直接アプローチできるのが大きな特徴です。
さらに、リテールメディアの大きな強みは、小売企業が持つ消費者の購買データや利用履歴(1st Partyデータ)を活用できる点です。広告主はターゲットとなる消費者に対して、非常に精度の高いマーケティングを行うことができ、消費者の反応や行動を詳細に把握できます。
企業が自社で直接収集した顧客のデータのことです。たとえば、顧客が自社のウェブサイトを訪れたときの閲覧履歴や購入履歴、会員登録時に提供された個人情報などが含まれます。
リテールメディアの種類
リテールメディアは大きく分けて、オンラインとオフラインの媒体に分類されます。それぞれのメディアの特徴を理解し、状況に応じて適切に使い分けることが重要です。
リテールメディアの種類は、大きくオンラインとオフラインの媒体に分類されます。それぞれのメディアの特徴を理解し、適切に使いわけることが重要です。
リテールメディア:オンライン広告
オンラインメディアでは、主にECサイトやアプリ内で広告が配信されます。オンラインで配信するメリットとしては、購入意欲の高い消費者に対してタイムリーにアプローチでき、デジタル環境での消費行動データを活用して、よりパーソナライズされた広告を展開できる点です。
種類 | 特徴 |
ECサイト | ・検索結果画面にメーカーの関連商品を広告として表示 ・幅広い認知獲得と、顧客の新たな関連商品の発見を促進 |
アプリ広告 | ・登録情報や行動履歴を1st Partyデータとして活用 ・ユーザーの興味に合わせた広告提供やプッシュ通知でリアルタイムの宣伝も可能 |
リテールメディア:オフライン広告
リテールメディアでは小売店内のデジタルサイネージや紙媒体を活用して広告を行うケースがあります。オフラインの強みは、店頭で実際に商品を手に取ったり購入する場面で広告を目にすることで、購入を即決させる効果が期待できる点です。
種類 | 特徴 |
店頭POP | ・来店客が必ず目にする位置に設置 ・メーカーの宣伝内容と小売店のPOPデザインを統一し、商品の訴求効果を向上 |
デジタルサイネージ | ・店頭に設置する液晶型の看板で、音や動きで印象的な表現が可能 ・時間帯や曜日に応じて内容を柔軟に変更可能 |
リテールメディアに取り組むメリット
リテールメディアを導入することで、メーカーなどの広告主・小売企業・消費者はそれぞれ以下のようなメリットを享受できます。
種類 | 特徴 |
広告主 | ・小売企業がもつ顧客データ(1st Partyデータ)を活用し、特定の商品に関心のある消費者に向けて広告を届けられる ・施策の効果が図りやすくなり、PDCAサイクルに活かせる |
小売企業 | ・リテールメディアを通じて広告収益が確保できる ・自社のオンライン・オフラインのメディア資産を有効活用し、効果的なプロモーションができる |
消費者 |
・自分の興味・関心に沿った広告を受け取れる ・割引やキャンペーン情報など、消費者にとって得になる内容が多く、ショッピング体験の向上につながる |
このように、広告主・小売企業・消費者がいずれもメリットを得られる関係を構築できることが、リテールメディアの特徴です。
リテールメディア広告の市場規模と拡大予測
リテールメディアの広告市場は、海外で急速に拡大しており、日本市場でも今後の成長が期待されています。
例えば、アメリカ市場においては、2023年のリテールメディア市場規模は513.6億ドル(約7兆円)に達し、2024年には611.5億ドル(約9兆円)に成長すると予測されています。このような成長を支えているのには、AmazonやWalmartといった大手企業がリテールメディアの市場をリードしていることが大きな要因と考えられます。
出典:What you need to know about retail media in 5 charts|emarketer.com
日本市場でも同様に成長が予測されています。株式会社CARTA HOLDINGSの2023年の調査によると、以下のようなデータが示されています。
・2023年時点でリテールメディアの市場規模は3,625億円
・新規参入が進めば、2027年には約2.6倍の9,332億円に成長する見込み
この成長の背景には、コンビニエンスストアやスーパーマーケット、ドラッグストアといった実店舗を持つ小売業者のデジタル化の推進があります。購買データや消費者行動に基づいた広告配信が普及することで、リテールメディア市場の拡大が進んでいます。
リテールメディアが注目される背景
近年はコンビニエンスストアやスーパーマーケットなど、伝統的な小売業者もデジタル化を進めており、リテールメディアの利用が拡大しています。このような実店舗とデジタルを融合させた新しい広告手法「リテールメディア」が注目される背景には、いくつかの重要な要因があります。
消費者の購買行動の変化
ECサイトなどのオンラインショッピングの拡大に伴い、オンライン広告を活用したマーケティング施策の重要性がますます高まっています。
総務省の調査によれば、2023年に二人以上世帯のネットショッピング利用率は53.5%に達し、前年の52.7%を上回って過去最高を記録しました。これは、消費者のショッピングがオンライン化へと進んでいることを示しています。
一方で、実店舗での売上も引き続き重要であり、特に購買データを保有していないメーカーにとっては、小売企業が持つ購買データの価値が非常に大きくなっています。
このような背景から、小売企業の購買データを活用するリテールメディアは、メーカーがより効果的なマーケティング戦略を実現する手段として、大いに注目されています。
クッキーレス時代の到来
個人情報保護規制の強化や消費者プライバシーへの関心の高まりにより、サードパーティクッキーの利用が制限される「クッキーレス時代」が進んでいます。サードパーティクッキーは、ウェブサイトをまたいだユーザーの追跡や広告のターゲティングに使われてきましたが、その廃止により従来のターゲティング手法が困難になっています。
一方、リテールメディアは、小売企業が自社で収集した1st Partyデータを活用します。これは、消費者が実際に店舗やオンラインショップで行った購買履歴や行動データに基づくものです。クッキーレス環境でも、小売企業は自社のプラットフォーム上で取得したデータを活用して、パーソナライズされた広告配信を行うことが可能です。
消費者のプライバシーに配慮しながら、購買データを基にした広告配信を行うため、クッキーレス時代に対応した新しいマーケティング手法としての役割を果たしています。消費者との信頼関係を維持しつつ、広告効果を高められる点が注目されています。
日本国内の企業のリテールメディア代表事例
ここでは、国内におけるリテールメディアの活用事例を2つ紹介します。2社の事例では、自社の強みを活かしてリテールメディアを活用し、顧客体験の向上とビジネス成果の最大化を図っています。
セブン‐イレブン・ジャパン
セブン-イレブン・ジャパンは、2022年に「リテールメディア推進部」を設立し、自社アプリを活用した広告事業に本格的に取り組み始めました。
同社の強みは、2,000万人以上が利用する「セブン-イレブンアプリ」から得られる膨大な購買データです。このデータを基に、消費者の行動や嗜好を詳細に分析し、ターゲティング精度の高い広告を配信しています。これにより、効果的なマーケティングが可能となっています。
さらに、アプリのトップページに表示される広告はクーポンと連動しており、ユーザーは興味を持った商品に簡単にアクセスして購入へ進むことができます。この仕組みは、消費者にとっても利便性が高く、購買行動を促進する強力な手段です。
また、アプリにはアンケート機能が搭載されており、広告の効果測定が行える点も特筆すべきポイントです。これにより、広告主は消費者からのフィードバックをもとに、さらに広告精度を向上させることができます。
セブン‐イレブン・ジャパンのリテールメディア事業は、このような広告配信とデータ分析の仕組みを活用し、精度の高いマーケティングを実現しているのが特徴です。
ヤマダデンキ
ヤマダデンキは、店頭のデジタルサイネージとアプリを連動させ、オンラインとオフラインの顧客体験を一体化したリテールメディア戦略を展開しています。この戦略の目的は、個々の顧客に合わせた広告を配信し、購買意欲を高めることです。
具体的には、店頭や店内に設置されたデジタルサイネージに、アプリと連携したコンテンツ広告や商品情報が表示されます。これと同時に、顧客には商品情報に関するプッシュ通知がリアルタイムで送られ、必要な情報をすぐに得ることができるため、店内を回りながらより充実したショッピング体験を提供します。
さらに、来店時の購買データを収集し、次回以降の広告配信に活用することで、ターゲティング精度を向上させています。また、顧客が退店した後も、適切なタイミングでモバイル広告を配信し、再来店を促す施策も行っています。
このように、ヤマダデンキではオンラインとオフラインの施策を巧みに連携させ、顧客にとってより魅力的で利便性の高いショッピング体験を提供することが特徴となっています。
リテールメディア実施時の流れ
まず、リテールメディアを導入する目的を明確にしましょう。例えば、ブランド認知の向上、売上アップ、ターゲット層へのアプローチ強化などの具体的な目標を設定します。その後の流れを以下に記していきます。
1.ターゲットを決める
「誰に広告を配信するのか」というターゲット設定は、リテールメディアの成功において非常に重要です。ターゲットが明確でないと、広告の効果が十分に発揮されず、結果として無駄な広告費が発生するリスクがあります。
例えば、メインのターゲットが会社員であれば、平日の日中は忙しく広告を見ない可能性が高いため、夕方以降や週末に広告を配信するといった配信タイミングの調整も可能です。
このようにターゲット層を明確にすることで、広告の訴求力が向上し、来店数や売上の増加につながりやすくなります。
2.適切な媒体を選定して配信する
ターゲットに最適な広告媒体を選定し、効果的に広告を配信することは非常に重要です。ターゲットの行動や心理に応じて最適な媒体を選ぶことで、広告の効果を最大化できます。小売企業が持つデータを活用し、慎重に選定しましょう。
例えば、小売企業のデータからオンラインでの購買が多い顧客がターゲットであれば、ECサイトやアプリ内での広告配信が効果的です。さらに、1st Partyデータを活用して、特定のセグメントに対するクーポン配信や、行動履歴に基づくセグメント配信を展開することで、ターゲットに合わせたプロモーションが可能になります。
ただし、広告が過剰に配信されたり、顧客の興味に合わない広告が表示されたりすると、ストレスを感じさせる恐れがあります。そのため、広告の量や内容、配信タイミングなどを慎重に考慮し、施策の優先順位をつけて効果的に配信することが重要です。
3.効果を確認して改善する
広告配信後には、その効果をしっかりと確認し、必要に応じて施策の改善を行うことが重要です。リテールメディアの強みは、小売企業の保有するデータを活用して、広告が消費者にどのような影響を与えたかを詳細に把握できる点にあります。
具体的には、広告配信後の来店数、購入数、キャンペーンに対する反応などを詳細に分析します。このデータを基に、広告のパフォーマンスを評価し、どの部分で改善が必要かを特定します。ターゲットに十分にリーチできていない場合や、予想した効果が出ていない場合には、ターゲット設定や媒体選定を見直すことが重要です。
こうしたフィードバックを次回のプロモーションに反映させることで、広告の効果をさらに高め、長期的な成果に繋げることができます。
まとめ
リテールメディアは、広告主が購買意欲の高い顧客層に向けて、自社の商品の情報を適切なタイミングで届けるためのマーケティング手法です。顧客データを活用した精度の高いターゲティングにより、効果的に売上を伸ばせます。
導入にあたっては、まず自社のターゲット層に合った適切な媒体を選択することが重要です。広告効果を最大化するために、PDCAサイクルを回して継続的な改善を行う必要があります。
市場の動向や消費者ニーズを常に把握し、柔軟に戦略を調整することで、リテールメディアの導入効果を最大限に引き出しましょう。