ナーチャリングとは?顧客育成に有効な10の施策を紹介

ナーチャリングとは、顧客との信頼関係を育み、自社の商品やサービスへの購買意欲を高めるマーケティング施策です。見込み顧客の購買を後押ししたり、既存顧客のリピート購入を促したりすることを目的としています。本記事では、ナーチャリングの概要や重要性、具体的な施策を解説します。企業の成功事例や導入の流れも紹介します。 リードナーチャリングについてあまり詳しく知らない方や、基本を再確認したい方は、ぜひ参考になさってください。

ナーチャリング(顧客育成)とは

ナーチャリング(顧客育成)とは、顧客との信頼関係を築きながら、自社の商品やサービスに対する購買意欲を高めるためのマーケティング施策です。見込み顧客の意思決定をサポートしたり、既存顧客のリピート購入を促したりすることを目的としています。

特に、見込み顧客(リード)に対して商品やサービスの認知度を高め、購買へとつなげる取り組みは「リードナーチャリング」と呼ばれています。このプロセスを通じて、顧客が購入を決断するまでの関係性を丁寧に育むことが可能です。

ちなみに、ナーチャリングは英語の「nurturing(育成)」から派生した言葉で、ビジネスでは「顧客育成」として使われることが一般的です。

ナーチャリングの代表例

代表的なナーチャリング手法としては、メールマガジンを配信して継続的な情報提供を行ったり、セミナーを開催して直接的な接点を増やしたりする方法があります。また、SNSを活用して日常的なコミュニケーションを図ったり、オウンドメディアで専門的な情報を発信したりする取り組みも主流です。

その他にも、ナーチャリングには様々な手法がありますが、詳しくは後述の「ナーチャリングに有効な10の施策」で紹介します。

ナーチャリングが重要視される理由

コロナ禍以降、対面での商談機会が減少し、「新規顧客の獲得が難しくなった…」と感じている企業も多いのではないでしょうか。その影響で、従来の営業手法だけでは十分な成果を上げることが難しくなっています。

また、SNSの普及や顧客の価値観の多様化によって、購入意思決定プロセスが複雑化しています。

近年では、顧客自身がインターネットを使って情報を収集し、複数の商品やサービスを比較検討するのが当たり前になっています。

そのため、単なる情報収集が目的で、サービスへの関心が低い見込み顧客に対して、直接的な営業を行うことは効果が薄い場合があります。そこで、購買意欲の低い見込み顧客を早い段階で獲得し、関係を築きながら段階的に育成することが求められています。

こうした状況の中で、あらゆる業界において継続的な顧客獲得の手段として注目されているのが「ナーチャリング(顧客育成)」です。今では営業活動の手法として、多くの企業が積極的に取り組んでいます。

ナーチャリングでは、適切なタイミングで価値ある情報を提供し続けることで、顧客の購買意欲を徐々に高め、最終的に購入へとつなげることが可能です。

目次へ

顧客ステージ別に見るナーチャリング

顧客は「新規顧客」「既存顧客」「ロイヤル顧客(優良顧客)」といったステージに分類でき、それぞれの段階に適した施策を展開することで、長期的な関係構築を目指すことが可能です。

顧客ステージ 詳細
新規顧客 まず見込み顧客に興味を持ってもらい、信頼関係を築くことが重要です。この段階では、オウンドメディアやSNSなどを活用し、有益な情報を発信することで、自社の商品やサービスに関心を持ってもらう「コンテンツマーケティング」が有効です。
既存顧客 購入後のフォローや追加提案を通じて、関係性を深めることが目的となります。具体的には、アフターフォローのメールを送ったり、商品やサービスのアップデート情報を提供したりすることで、顧客満足度を向上させながら、アップセルやクロスセルを促します。
ロイヤル顧客(優良顧客) リピート購入や高額商品の購入を促進しつつ、競合他社への乗り換えを防ぐことが求められます。この段階では、定期的なコミュニケーションや特典の提供を通じて、特別感を演出し、顧客との関係性をさらに強化します。

新規顧客を獲得するためのコストは、既存顧客を維持するコストの約5倍かかるとされ、これは「1:5の法則」として広く知られています。

さらに、「5:25の法則」によると、顧客離れを5%改善するだけで、利益率が25%向上する可能性があるとされています。

これらの法則からもわかるように、既存顧客を維持し、さらに優良顧客へと育成することは、企業にとって非常に効率的かつ利益を最大化するための重要な戦略といえます。

目次へ

ナーチャリングに有効な10の施策

見込み顧客から既存顧客、さらには優良顧客に至るまで、それぞれの段階で役立つ施策を紹介します。

ナーチャリング施策 詳細
メールマガジン ・見込み顧客や既存顧客に有益な情報を定期的にメール配信する
・開封率や読了率など、効果測定が容易
ステップメール ・顧客の行動に合わせて段階的にメールを送信し、購買意欲を徐々に高める
・ストーリー性のある内容が特徴
SNS発信 ・SNSを活用し、タイムリーな情報を顧客に提供
・簡潔な文章で関心を引き、自社メディアや動画へ誘導可能
・とくに若年層に高い効果が期待できる
セミナー・ウェビナー ・顧客と直接やり取りする機会を提供
・セミナーを動画コンテンツ化し、不参加の顧客にもアプローチ可能
オウンドメディア ・自社運営メディアで顧客に有益なコンテンツを提供
・見込み顧客に、自社のノウハウや専門的な情報を発信し、ブランド認知や信頼構築に役立てる
・既存顧客に継続的に価値を提供し、顧客ロイヤリティを向上
ホワイトペーパー ・商品・サービスの情報をまとめた資料を見込み顧客にダウンロードさせる
・信頼できる情報源が求められるBtoBの商品・サービスに有効
導入事例・お客様の声 ・実際の購入者の意見や口コミは見込み顧客の信頼を得やすい
・詳しい導入過程や結果を示す記事やインタビューが有用
ダイレクトメール ・カタログやハガキなどの紙媒体でメッセージを送付
・高齢層を含む幅広いターゲットにアプローチ可能
リターゲティング広告 ・過去ウェブサイトに訪問したユーザーに対して表示される広告
・繰り返し訴求することでユーザーが自社商品を思い出すきっかけになる
フォロー架電 ・見込み顧客に直接電話で連絡し、関心度や購買意欲を高めるアプローチ手法
・顧客は自身で体験する以上の価値を電話から得られるため、印象に残りやすいのが特徴

過去の商談や交流で得た顧客のメールアドレスを活用し、上記のようなアプローチを行うのが効果的です。

目次へ

ナーチャリングの成功事例

ナーチャリングを効果的に進めるには、成功事例を学ぶことが重要です。実際にナーチャリングで成果を上げた事例をもとに、どのように顧客との信頼関係を築き、購買意欲を高めていくのかを詳しく解説します。

今回は2社の事例を紹介します。

・SAP HANA Customer Spotlight Program
・株式会社シンフィールド

それぞれ詳しくみていきましょう。

SAP HANA Customer Spotlight Program

SAP社は、BtoB向けソフトウェアを提供するドイツの企業です。自社製品「SAP HANA」の販売促進を目的にリードナーチャリングプログラム「SAP HANA Customer Spotlight Program」を実施しました。

このプログラムでは、製品を導入した企業のインタビューをウェブキャストで配信し、見込み顧客が具体的な導入シーンをイメージしやすくしています。また、ウェビナーでは参加者からの質問にリアルタイムで応答することで、製品への理解を深める機会を提供しています。

プログラムには2,600以上のユーザーが登録し、見込み顧客の購買意欲が高まったことで、自社整品の売上向上につながりました。

株式会社シンフィールド

株式会社シンフィールドは、マンガを活用したマーケティングに特化した日本の企業です。展示会や営業活動で得た名刺情報を活用してリードナーチャリングを行っています。

同社は、2週間ごとのメールマガジンで有益な情報を提供し、顧客との関係を深めています。また、不定期で商品購入を促す「引き上げ」メールを送信。メール内のURLをクリックした顧客には、電話でフォローアップするなど、購入意欲を高める施策を実施しています。

この戦略により、URLをクリックした顧客のアポイント成功率は10~15%に達し、通常のテレアポと比較して大きな効果を上げました。

目次へ

ナーチャリングの導入手順

ナーチャリングを効果的に行うための手順を以下の流れで解説します。

1.見込み顧客の情報を一元化する
2.顧客をセグメントにわける
3.カスタマージャーニーを検討する
4.KPIを設定する
5.PDCAを継続的に回す

それぞれ詳しくみていきましょう。

1.見込み顧客の情報を一元化する

ナーチャリングの成功に向けては、まず見込み顧客の詳細な情報を一元化する必要があります。見込み顧客の情報は各部署に分散している場合が多く、そのままでは情報が不足して顧客の嗜好に応じた施策を立案しにくいためです。

顧客データは、名刺やウェブサイトのお問い合わせフォーム、展示会、セミナーなど、さまざまな接点から収集します。名前や連絡先だけでなく、顧客の興味や行動パターン、購買履歴といった詳細なデータも重要な要素となります。

収集した情報をひとつの資料やデータベースにまとめて、全体像を部署間で共有することにより、施策の重複や方向性のズレを防ぎましょう。

2.顧客をセグメント分けする

収集した情報を一元化したら、顧客をグループ化(セグメント化)します。セグメントにわけることで、顧客一人ひとりに合ったアプローチができるのがメリットです。

具体的には、性別や年齢、業界、興味関心、行動パターンなどに基づき分類します。その際、以下のような顧客分析手法を利用することで、ナーチャリング戦略をより効果的に進められます。

ナーチャリング施策 詳細
RFM分析 ・「Recency(最終購買日)」「Frequency(購買頻度)」「Monetary(累計購買額)」で顧客を分類し、価値の高い顧客層を特定する
・購買意欲や顧客のロイヤリティを見極め、ナーチャリング施策に役立てられる
デシル分析 ・顧客を売上金額の多い順に10グループにわける手法
・上位グループの顧客を特定することで、重点的にアプローチすべきターゲットが明確になる
CTB分析 ・「Category(カテゴリー)」「Timing(購入タイミング)」「Budget(予算)」の3軸で顧客を分類
・顧客のニーズや購入時期を把握し、適切なタイミングで効果的なアプローチを実施できる

3.カスタマージャーニーを検討する

カスタマージャーニーを検討して、顧客の購買プロセスに合わせた情報提供の方針を立てることで、顧客のニーズに応じた施策を講じられます。カスタマージャーニーとは、顧客が商品を認知してから興味を抱き、購買に至るまでのプロセスです。

例えば、興味段階の顧客には、自社独自の知見に基づいた問題解決策を提案することで購買意欲を高められます。一方、購入準備段階の顧客には、具体的な成功事例を紹介することで不安を解消し、購買意欲を後押しすることが可能です。

施策の方針を立てる際に必要な情報が足りない場合は、対象セグメントにアンケートやインタビューを行うのも効果的です。

4.KPIを設定する

ナーチャリングの成果を測定し、施策の効果を見極めるためにはKPI(重要業績評価指標)の設定が重要です。適切なKPIを設定することで、顧客の購入意欲の変化を把握し、施策の効果を適切に判断できるようになるためです。

まずKGI(重要目標達成指標)を定め、それに基づいて目標達成に必要なKPIを設計します。例えば、KGIを「見込み顧客からの売上増加」と設定した場合、メールによるナーチャリング施策では、売上増加に関係する以下の指標を設定します。

・リスト数
・開封率
・クリック率
・コンバージョン数(ユーザーが購入など利益につながるアクションをした数)

KGIに基づきKPIを設定することで、各施策が目標達成にどう影響しているかを具体的に把握できます。

5.PDCAを継続的に回す

施策を実行した後は効果を検証し、継続的に改善を図りましょう。適切なナーチャリングの施策は企業によって異なるため、実行しながら方向性を修正することが不可欠です。

例えばオウンドメディアの場合、アクセス解析データから訪問者の動向を分析し、コンテンツの改善に役立てます。また、メールマガジンに関しては、開封率やクリック数を確認して効果を把握し、必要に応じて送付先や内容の見直しを行います。

こうしたPDCAサイクルを継続的に回すことで、ナーチャリング施策の精度が高まり、顧客との長期的な信頼関係の構築につながるでしょう。

目次へ

まとめ

ナーチャリングは、単なる認知拡大の施策にとどまらず、顧客と企業の信頼関係を育むための重要な戦略です。顧客との長期的な関係を築くことで、企業はロイヤリティの高い顧客基盤を形成し、安定した売上とブランド価値の向上を実現できます。
ナーチャリングの成功に向けては、顧客の興味や関心に合わせたコミュニケーションの最適化が欠かせません。変化し続ける市場環境やニーズに柔軟に対応し、顧客にとって価値のある情報を提供し続けましょう。