目次
コーポレートブランディングとは
コーポレートブランディングとは、企業価値を高める経営戦略のことです。企業そのもののブランド価値を確立し、向上させる取り組みを指します。
企業ブランディングとも呼ばれ、企業の存在価値を明確にし、ブランドとしての認識を広めることが目的です。
現代の企業は顧客との信頼関係構築や従業員のモチベーション向上、投資家からの評価向上など、さまざまな課題に直面しています。
これらの課題を解決するためには、コーポレートブランディングでブランドの認知を広げ、企業の価値を高めることが不可欠です。
コーポレートブランディングに成功すれば、企業は市場での競争力を長期にわたって高められます。
コーポレートブランディングの役割
コーポレートブランディングの役割は、企業の立ち位置を明らかにして、社会からの認知、サポートを得られるようにすることです。ただ単にイメージアップを図るものではありません。
製品ブランディングは消費者に対して行いますが、コーポレートブランディングは株主や従業員などのステークホルダー(利害関係者)も対象とし、社会全体へ発信する目的があります。
また、敵対的M&A(企業の合併や買収)を防ぐ対策としても、コーポレートブランディングは重要な役割を果たします。
有形資産の増加が難しくても、ブランドのような無形資産の価値を高めることで、時価総額をアップさせる企業が増加していると言われています。
プロダクトブランディングとの違い
コーポレートブランディングとよく似ている用語として、プロダクトブランディングがあります。
コーポレートブランディングとプロダクトブランディングの違いは以下のとおりです。
コーポレートブランディング | プロダクトブランディング | |
概要 | 企業全体の信頼感や知名度を高める戦略 | 特定の製品に特化してマーケティングを行う戦略 |
目的 | 企業名を聞いただけで、商品の価値や品質を保証するような印象を与える | 企業名に依存せず、製品自体に高いブランド力を持たせる |
例 | ・資生堂 ・サントリー など |
・ファブリーズ(消臭剤) ・パンパース(紙おむつ) など |
コーポレートブランディングとプロダクトブランディングは、どちらもブランド構築において重要な戦略です。自社のブランディング戦略に合ったものを選び、実行していきましょう。
コーポレートブランディングで得られるメリット
コーポレートブランディングで得られるメリットは以下の4つです。
・資金調達がしやすくなる
・人材採用がしやすくなる
・製品ブランディングや他社との差別化につながる
・社内の意識改革や企業体質の改善につながる
それぞれ、詳しくみていきましょう。
資金調達がしやすくなる
1つ目のメリットは、企業の成功を左右する資金調達がしやすくなることです。
企業の立ち位置を明らかにすることで、金融機関や投資家からの期待が高まり、資金調達に必要な信用力へつながります。
ブランドイメージの高い企業は新規事業への投資も受けやすくなり、さらには銀行から金利の低い融資を受けられる可能性も高くなります。
ブランド力を高めることで企業は必要な資金を確保しやすくなり、成長を加速できるのです。
人材採用がしやすくなる
2つ目のメリットは、人材採用がしやすくなることです。
日本は人口減少や少子化の影響で、優秀な人材を確保することが難しくなっています。現代では財務状況や企業理念、仕事内容、報酬面などが、就職先を決定する際の重要なポイントとして注目されています。
企業ブランドがしっかり構築されていれば、企業のイメージ向上が期待できます。良いイメージが広まっていれば、ビジョンやミッションに共感する人に出会えます。つまり必然的に企業の必要とする人材が集まりやすくなるのです。
製品ブランディングや他社との差別化につながる
3つ目のメリットは、製品ブランディングや他社との差別化につながることです。
ブランド価値の高い企業の製品やサービスは、顧客から高い信頼を得られるため、他社の製品と比較した際に選ばれやすくなります。
例えば、Appleはユーザー体験を重視した製品開発や高い技術力によって、2024年「世界で最も価値のあるブランド」で第1位に選ばれています。
多くの消費者は価格が高くてもブランド価値の高いApple製品を選ぶため、AppleはPC市場やスマートフォン市場で価格競争に巻き込まれることなく高い利益率を維持しています。そのため、製品のブランディングで他者との差別化に成功している典型と言えるでしょう。
このようにコーポレートブランディングは、価格競争を避けることにもつながるのです。
出典:Revealed: the world’s most valuable brands of 2024
社内の意識改革や企業体質の改善につながる
4つ目のメリットは、社内の意識改革や企業体質の改善につながる点です。
企業理念やビジョンを従業員と共有することで、従業員のモチベーションや一体感が高まり、組織内の連携強化につながります。
例えば、トヨタ自動車は「トヨタウェイ」という企業理念を掲げています。トヨタウェイは尊重や改善、挑戦などの価値観を含んだ理念です。
この理念のもと共通の目標に向かって働くことで、トヨタでは生産性が向上し、従業員のモチベーションが高まり、離職率も低下しています。
コーポレートブランディングの具体的な施策
コーポレートブランディングの施策は「アウターブランディング」と「インナーブランディング」の2つにわけられます。
アウターブランディング
アウターブランディングとは、顧客や市場に対して企業のブランドイメージを形成し、認知度を高める施策のことです。
アウターブランディングによって企業のブランド認知度が高められるので、市場での競争力を強化できます。
なお具体的には、以下のような施策があります。
・社名やロゴを変更して企業が目指す新たな姿や方向性を明確にする
・製品デザインやウェブサイトをリニューアルしてブランドの統一感を持たせる
・テレビCMや新聞広告、プレスリリース、ブログ、オウンドメディアなどのメディアを活用してブランド情報を発信する
これらの施策を行うことで、自社のイメージを浸透させやすくなることがポイントです。
インナーブランディング
インナーブランディングとは、従業員に企業のブランドイメージを共有し、企業文化を形成する施策のことです。
インナーブランディングによって従業員のモチベーションを高め、組織全体の一体感を強化できます。
なお具体的には、以下のような施策があります。
・ミッション、バリューなど行動指針を策定し、従業員に共有する
・人事制度や組織体制、福利厚生を刷新して、従業員のモチベーション向上や採用力強化を図る
従業員のモチベーション向上ができれば、生産性の向上や個々のスキルアップにもつなげられるでしょう。
コーポレートブランディングの進め方
コーポレートブランディングは以下の手順で進めます。
1.現状調査と分析
2.ブランドの定義
3.ブランディングの実施
4.ブランド認知度の検証と改善
それぞれ、詳しくみていきましょう。
1.現状調査と分析
1つ目のステップは、現状調査です。
外部分析と内部分析を通して企業の社会的立ち位置を把握し、ターゲット層を特定していきます。企業を客観視することで、現状の姿と目指す姿の大きなずれを認識することが目的です。
具体的には以下のように進めます。
1.企業の会社案内や社内報、マニュアル、過去のインタビュー記事などの社内資料を集めて、組織文化や自社ブランドの現状を理解する |
憶測ではない事実をベースとする現状調査により、コーポレートブランディングを推進するメンバーの意識統一を図り、円滑に進めていくことも期待できます。
2.ブランドの定義
2つ目のステップは、ブランドの定義です。
現状調査結果をもとに、企業ブランドが抱えている課題や、企業ブランドとして期待されていることが何かを分析していきます。
分析結果をもとに、企業がステークホルダーに向けて発信したい「社会的な立ち位置や姿勢」を決定します。
そして、企業の特徴、社会的役割、ビジョン、差別化、提供価値などを言語化し、それをイメージできるロゴやキャッチコピーなどのシンボルを決定していきます。
このように、発信したい概念や考えを、言語やシンボルで形づくり視覚化することで、多くのステークホルダーに認識され、企業と共有していくことが期待できます。
3.ブランディングの実施
3つ目のステップは、ブランディングの実施です。決定したブランドの定義をどのように社会へ発信していくかを計画します。
現状調査で特定したターゲット層へ、戦略的に伝達できる手段を選んでいきます。
一般的な手段として、テレビや新聞などのメディア媒体や、実際に販売している商品サービス、PRキャンペーン、SNSやイベントなどのコミュニケーションが挙げられます。
このようなさまざまな手段を組み合わせて、効果的に伝達していく戦略が重要です。
4.ブランド認知度の検証と改善
4つ目のステップは、認知度の検証です。コーポレートブランディングは長期的な戦略となるうえに、ステークホルダーに認知されるのにも数年を要する場合があります。
コーポレートブランディングを開始し一定の期間が経ってから、アンケート調査を行い検証します。進捗状況が思うような結果でなければ、進め方を改善していく必要があります。
コーポレートブランディングを行う際のポイント
コーポレートブランディングを行う際のポイントは以下の2つです。
・ブランドの核をしっかりと定める
・すぐに結果を求めない
それぞれ、詳しくみていきましょう。
ブランドの核をしっかりと定める
ブランドの核をしっかりと定めることは、コーポレートブランディングにおいて欠かせない要素です。
自社の目的や目指す方向性、価値観などを明確に定義することで、事業計画や経営判断の基盤となります。
例えば、ウォルト・ディズニー・カンパニー(通称ディズニー)は「ファミリー・エンターテイメント」をブランドの核としており、ディズニーの製品やサービスは常に家族全員が楽しめるものになっています。
ブランドの核を明確にすることで企業全体に一貫性が生まれ、顧客に強いブランドイメージを与えられるのです。
すぐに結果を求めない
コーポレートブランディングを成功させるためには、すぐに結果を求めないことが大切です。
ブランド価値が社内外に浸透するには時間がかかるため、長期的な視点で育てていく必要があるからです。
例えば、ユニクロは「LifeWear」というブランドメッセージを掲げ、長年にわたり実践し続けています。
LifeWearのテーマは「高品質かつリーズナブルな価格の普段着」です。この一貫したブランドメッセージと価値観を実践し続けることで、顧客からの信頼を築き、持続的な成長が実現できるのです。
出典:LifeWearが世界を変える|ユニクロ
コーポレートブランディングの事例
コーポレートブランディングの事例をご紹介します。
・メルカリ
・ヤンマー
・ハーレーダビッドソン
それぞれ、詳しくみていきましょう。
メルカリ
フリマアプリで有名なメルカリが運営するオウンドメディア「mercan」は、組織文化の統一と人材獲得という2つのブランディングを成功させた事例です。
mercanには経営ビジョンやカルチャーを伝えるコンテンツが掲載されており、従業員のモチベーション向上や、組織文化の浸透に成功しています。
また、mercanに従業員のインタビューを掲載することで、メルカリのビジョンに共感する優秀な人材を引き寄せることにも成功しています。
求人情報ページにはmercanへのリンクが設置されており、応募者は従業員のリアルな声を知ることが可能です。
ヤンマー
発動機や農機などの製造を行っているヤンマーは、創業100周年の際にシンボルマークを作成し、ブランドイメージの刷新に成功しました。
トンボの羽をモチーフにしたシンボルマークを広告や製品デザインに使用することで、ブランド認知度を向上させました。
シンボルマーク以外にも、スローガンの策定やウェブサイトのリニューアルなど、さまざまなブランディング施策を実施し、グローバル市場でも強い存在感を示しています。
ハーレーダビッドソン
バイクブランドで有名なハーレーダビッドソンは、コミュニティやイベントを活用したブランド戦略の成功事例です。
ハーレーダビッドソンは所有者だけが入会できるクラブ「Harley Owners Group (HOG)」を設立し、定期的にイベントを開催しています。
HOGのイベントをきっかけにバイクを購入する人も多く、根強い支持を得ています。また、ハーレーダビッドソンはバイクの実用性よりも「趣味」や「楽しみ」を重視した「コト消費」戦略も特徴的です。
「コト消費」戦略によって、高価格、重い、燃費が良くないなどのデメリットがありながらも、長く愛され続けています。
まとめ
コーポレートブランディングを実施することで、顧客だけでなく、従業員や投資家に対しても良い印象を与えられます。コーポレートブランディングを成功させるには基本的な進め方を理解し、長期的な視点で一貫性を持って進めることが大切です。
自社でブランディングを行うのが難しい場合は、コンサルティング会社の力を借りることも検討しましょう。