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ブランディングに欠かせない理論
マーケティングを行う上で、対外的に見た自社のポジションを明確にすることが必要です。この自社のポジションを明確化する作業を「ブランディング」といいます。
間違えたブランディングを行ってしまうと、自社が目指す方向とは異なる認識を持たれてしまうこともあります。ブランディングで間違えを起こさないためには、ブランディング理論を知ることが必要です。
ここでは2つのブランディング理論について解説します。一つはマーケティングの神様といわれているフィリップ・コトラー氏が提唱する「5A理論」です。そしてもう一つはビジネス界で高名なクレイトン・クリステンセン教授が提唱する「ジョブ理論」です。
5A理論
5A理論を提唱するフィリップ・コトラー氏の名前はマーケティング担当者であれば一度は耳にしたことがあるでしょう。マーケティングの神様とも呼ばれるコトラー氏は、5段階の購買プロセスがあると提唱しています。
5段階の購買プロセスは「認知(Aware)」「訴求(Appeal)」「調査(Ask)」「行動(Act)」「奨励(Advocate)」のそれぞれの単語の頭文字をとり5Aとされます。コトラー氏はマーケティングの究極の目標は「ロイヤルカスタマーを獲得すること」としています。
広告や口コミといったマーケティングによりブランド「認知」を獲得し、さらに他のブランドと識別され記憶(訴求)してもらいます。
さらに評価やネット検索などでブランドを「調査」して、実際に商品やサービスを購入するという「行動」を起こします。そして満足度が高い商品やサービスを他の人に対して「奨励」するロイヤルカスタマーとなる過程が5Aです。
この5段階の購買プロセスに沿ったマーケティングを行うことが重要であるというのが5A理論です。
ジョブ理論
ジョブ理論は顧客が欲している商品やサービスを提供するために、どのように自社が取り組めばよいかを論理的に説明するための理論で、クレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論です。
ジョブ理論は大きく4つの構造で成り立っています。1つ目の構造としてジョブがあります。顧客が商品やサービスを購入するのは、成し遂げたい目的が存在します。この目的のことをジョブ理論では「ジョブ」と呼びます。
2つ目の構造が「ハイア」です。顧客が実際に商品やサービスを消費することです。3つ目は顧客がジョブを行うためにどの商品やサービスをハイアするかを決めます。4つ目はさらにジョブを達成したことで得られる感情や社会的な価値の取得です。
もう少し要約すると、企業はただ顧客が満足すると思う商品やサービスを提供するのではなく、どうして顧客がその商品やサービスを求めるのかを考え、それに沿った商品開発を行わなければならないということです。
例えば味わいはごく普通でもキャラクターのイラストが描かれた菓子が売れるのは、キャラクターが描かれた菓子が欲しいという顧客のニーズに合った商品開発が行えた結果でしょう。
どんなに味わいがよい菓子を作っても、キャラクターを求めている顧客にとってはキャラクターが描かれてない菓子は不要です。
商品開発をするにあたり、顧客が何を目的としているか(ジョブ)を考え、それを達成できる商品を作り出す必要があります。
理論を上手く活用することがブランディング成功につながる
自社のブランディングを行うと考えると、責任もかかり難しい問題のように感じます。ここではブランディングという言葉を少し柔らかくして、自社の想いや理想を顧客に伝えることと考えていきましょう。
顧客に伝えたい想いや理想とする考え方をどのように伝えればよいかを考えます。そしてその思いや理想とする考え方に共感する顧客を獲得するための方法を考えていくのがマーケティングと考えましょう。
顧客とのエンゲージメントを強化できる
世の中には同じような商品やサービスが沢山あり、顧客は多くの中から自分にぴったりの商品やサービスを選ばなければなりません。
中にはどう選べばよいか分からないという悩みをもつ顧客も多いでしょう。ですが、他社との違いが明確に示されている商品やサービスで、共感できる内容があれば、顧客はその商品やサービスを選びやすくなります。
実際に選んだ商品やサービスに対して満足度が高いと感じれば、顧客は同じ商品やサービスを選ぶようになります。つまり、顧客はその商品やサービスに対し高い信頼性を持ち、次も自社の商品やサービスを選ぶようになります。
このような流れを「顧客とのエンゲージメント」といいます。顧客が分かりやすい他社商品やサービスとの差別化を続け、顧客から選ばれ続けば、よりエンゲージメントは強化していくでしょう。
最終的には「これを購入するならこの商品」と選ばれるようになり、さらには「この企業の商品やサービスは信頼できる」と企業自体が選ばれるようになります。
5A理論やジョブ理論がここで役立つでしょう。顧客が求めているニーズをしっかりとリサーチし、それに沿った想いを発信し伝えることで、顧客から選ばれる商品やサービスが作り出せます。つまり、顧客のニーズにあったブランディングを行っていけばよいでしょう。
企業の価値をより深く知ってもらえる
より他の商品やサービス、企業との違いを顧客に知ってもらい、差別化を図る方法に「ストーリーテリング」という手法があります。企業の成り立ちや商品ヒストリーを紹介することで、企業の価値をより深く知ってもらう手法です。
具体的な例をあげると、NHKの朝の連続テレビ小説の題材に取り上げられた企業が、放映中より業績を伸ばし、ときには大ヒット商品を生み出すことがあります。ドラマで商品が作られた背景や作り上げた人物をより深く丁寧に紹介されることで、顧客の信頼や共感が得られたといえます。
朝の連続テレビ小説の題材に取り上げられることは難しいですが、インターネット広告などをうまく活用することで規模が小さな企業でもストーリーテリングによるブランディングは可能です。
ブランディングで理論を上手く活用するには
ここからはブランディング理論を上手く活用していく方法について解説していきます。企業の一方的な想いを伝えることやバラバラに想いを伝えてしまっては、新規顧客を獲得し顧客を増やしていくことにはつながりません。
理論を活用しつつブランディングを成功させる方法を解説します。
客観的な視点を受け入れる
自社が作るものなのだから信頼性に間違いはないし顧客は喜んでくれるだろう、という視点でマーケティングを行っては顧客が付いてこないでしょう。そこには企業の視点しか存在しないためです。
顧客がどう考え、どのような商品やサービスを求めているかを知ることで、ニーズにあった商品開発やサービスの提供が行えるようになります。
顧客は欲しいと思っていた商品やサービスに出会えたことで、高い満足度を持って購入します。一方的に「これなら売れるだろう」という商品では、魅力を感じない可能性があります。
顧客の立場になった視線でより多くの人が求める商品開発を行うためのマーケティングを行い、ブランド認知を獲得していくことがブランディングを行う上で大切です。
売れなかったり認知されないときには必ず顧客のニーズとのズレが生じていると考えましょう。その上でズレが生じていることを受け止め、ブランディングを見直す必要があります。
広いシェアをとることを目的とするよりは、狭い範囲でもニッチな顧客が熱望する商品開発を行うことも、ブランディングで成功をする一つの方法です。多くの人が求めていなくても、深く自社や自社商品を愛する顧客がいることが大切と考えてブランディングしてもよいでしょう。
企業の立場や企業の視点ではなく、顧客や潜在顧客の立場に立ち、客観的な視点を受け入れることが大切です。
一貫性を意識する
顧客のニーズは時代により移り変わりますし、時代の流れが速いため一時的に顧客が定着したとしても、ニーズが変わり獲得していたはずの顧客が離れることがあります。顧客のニーズに合わせたブランディングを繰り返すと、ズレが生じることがあるでしょう。
そのたびに全く方向性が異なるブランディングを行うと「この企業は何をしたいのか」と顧客が疑問に思い信頼感が下がるでしょう。
ニーズに合わせつつも、一貫性を意識したブランディングを行うことが大切です。それにより、顧客には企業イメージが明確になり企業に対してのブランディングが成功します。
企業内部には多くの人が働いているはずです。その一人ひとりがブランディングを意識して商品開発や販売、サービスの提供を行うことも大切です。従業員全員がバラバラな思考で動いては、企業に対しての信頼性が下がるでしょう。
従業員が同じ目標や考えを持つことで、自然と企業のカラーが生まれ企業ブランディングが成功します。多少異なる方向性の商品やサービスが並んでいても、この企業の商品やサービスなら信頼できる、と考えられるようになればよいでしょう。
商品やサービスのブランディング、または企業ブランディングの一貫性を意識することは大切といえます。